子どもの起立性調節障害って？

最近広く周知されてきた病気の一つに、朝起きられず、頭痛や倦怠感が続く『起立性調節障害』があります。これは小学生から大人まで、誰もが患う可能性のある病気です。

日本小児心身医学会によると、軽症例も含めるとなんと中学生の約10%に症状が見られるとされ、学校生活や日常生活に支障をきたすこともあります。

起立性調節障害は、朝起きられない（起床困難）、倦怠感、頭痛、腹痛、動悸、食欲不振、吐き気、立ちくらみなど、症状は様々です。

自律神経の機能不全から引き起こされるものですが、風邪などの症状を疑って医療機関を受診しても特に異常がなく、午後から夕方にかけて症状が改善し元気になる事が多く、そのため夜更かし（不眠症状）に繋がりやすく、さらに翌朝起きづらくなるといった悪循環に陥りやすいのです。

このように見た目では分かりにくい病気のため、「やる気がない」「学校に行きたくないだけ」などと「ただのサボり癖では？」と思われがちです。

いつ頃発症しやすいの？

発症しやすい時期としては、小学生や中学生の成長期（思春期）に当たる頃に多く見られます。

成長のスピードに自律神経の発達が追いつかないことが関係していると考えられています。

この時期は体の機能と心が子供から大人へと変化していき、その変化は自律神経にまで及ぶため、自律神経と副交感神経のバランスが取りづらくなるのです。また、生活習慣やストレスも大きく関係し、成長期だけの問題ではないことは容易に考えられます。

新年度を迎える時期などは、子ども達も新しい人間関係の構築や新しい学校などの生活環境が変わり、本人も気づかないうちに過度なストレスを受けやすく、また生活リズムも乱れやすい時期ですので、要注意が必要です。

また、天気や気圧などにも左右されることもあり雨や曇りの日、暑い時期には影響を受けやすくなります。

子どもの起立性調節障害の特徴は？

子どもの起立性調節障害の特徴として、人は体内に備わった体内時計によって体温や血圧、精神症状などが１日のなかで変動するのですが、この変動が大きい点が挙げられます。午前中にうまく交感神経が活性化しないため、体がアクティブに動けずうまく活動を起こすことができなくなります。

そのため、比較的午前中は症状が重く、めまいやふらつきが強く生じて起床できなくなり、日常生活や学校生活に大きな支障をきたすことになります。

しかし、時間の経過とともに副交感神経が抑制され、交感神経が活性化し始めると脳血流が増加し、症状が改善していきます。

その結果、午後から夕方に症状が改善するため、夜に元気になりそれが逆に不眠症状を引き起こし、その影響を受け翌朝起きられなくなるという、悪循環に陥る子どもも多いのです。

そのため、徐々に睡眠が逆転してしまい「睡眠障害」を併発する子どもも多く、これを放置してしまうと重症化する可能性もあるので、軽視できません。

また、思春期以後の女子は生理不順やPMS（月経前症候群）を併発するケースもあります。

しかし、冒頭にも記載しましたが、見た目では分かりにくい病気のため、保護者や先生の理解が得られず、ストレスになって長引いてしまう子もいます。

学校にも登校できないことが続くと、友達との関係も希薄になってしまい、ますます登校しづらくなってしまうなどの弊害は計り知れません。

回復にはどれぐらいの期間がかかるの？

発症してから1年後には約半数が、2～3年後には約8割が回復すると言われていますが、重症の場合は大人になっても症状が残ることもあります。

そのためにも、早めの診断と対処が必要となります。

また、進学や進級にも影響が出てしまう例もあります。

診断書を提出する事で学校側に理解を促し、柔軟な対応をしてもらえる場合もあるので、まずは、専門家である医療機関で診断を受け適切な対処をしていくことが、成長をしていく子どもにとって重要になります。

どのような症状が前兆なの？

• 以前と比べて朝起きるのがつらそう
• 学校へ投稿することに対して消極的になってきた
• 午前中は倦怠感が強く、午後から夕方にかけて元気になる

起立性調節障害の初期症状は些細な事で、見落としや誤解が起こりがちです。

しかし「健康な子どもでも発症する可能性がある」事を常に念頭に置いてお子様を観察し、早期発見に繋げていくことが大事です。

受験などをきっかけに「親からのストレス」を知らず知らずのうちに受け、発症や悪化に繋がってしまう場合もあるので、受験時期などは特に日常の健康観察は重要です。

では、もっと細かく年代別の特徴的な症状をご紹介します。

小学生の症状

寝つきが悪い、早朝起きられない、午前中の倦怠感、など身体的な症状が多く見られる。

特に、高学年から身体的・精神的変化が起こるので十分な観察が必要です。

中学生の症状

寝つきが悪い、早朝起きられない、午前中の倦怠感、に加え精神的な変化も強くなるので、自己肯定感の低下、イライラしやすくなる傾向があります。

高校生の症状

午前中の授業に集中できず学力が著しく低下、特に午前中に保健室へ通う頻度が高くなるなど。（ゲームなどは勉強や仕事とは違う脳の場所を使うので、集中できてしまう）

いずれの年代でも軽症の場合、「朝起きるのはつらいが何とか準備をして登校する」という子どもが多くいます。

また、積極的に登校はするものの、立ちくらみやめまいを起こす事が多い場合は起立性調節障害の可能性を疑いましょう。

中等症状の場合では、強い倦怠感や立ちくらみで朝起きられず、学校に遅刻するケースが多く、学校嫌いやサボり癖（不登校）で片付けられてしまう事が多いので注意が必要です。

重症の場合は、学校生活や日常生活に支障をきたすほど体調を崩してしまうこともあります。

そのため、重症の場合はうつ病との鑑別は難しく、子どもだからと言って起立性調節障害を決めつけてはいけません。

うつ病は脳内で情報をやり取りする際に必要な「神経伝達ホルモン」のバランスが崩れ、脳の働きに問題が起きている状態です。

したがって、起立性調節障害とは違う対処法となるため、適切な診断と対処が必要となります。

起立性調節障害の治療法は？

起立性調節障害の治療は薬物療法とセルフケアを並行して行います。

セルフケアは主に次の項目が挙げられます。

• 睡眠リズムを整える（決まった時間に就寝・起床）
• 光環境を整える。（起床時は明るくまた朝日を浴びる、就寝前や就寝時は暗く）
• 腸内環境を整える（腸内環境が悪いと頭痛やめまい、倦怠感を起こしやすくなります）
• 栄養補給（成長期には栄養が不足がちになるので、３食バランスの良い食事を心がける）
• 多めの水分補給と塩分摂取（不足すると血管内を循環する血流が不足しやすく立ちくらみなどを起こしやすくなるため）
• 適度な運動やストレッチ（筋力維持・増強と血液の循環を保つため）
• ぬるめのお風呂で入浴

今は家庭環境も様々です。

家族で病気について理解を深め、皆で生活習慣の見直しをすることで生活リズムが整い、体への負担（ストレス）の原因を取り除いていくことで、回復の一助になっていくことでしょう。

予防法はあるの？

セルフケアと同じです。

規則正しい生活を心がけることで、カラダのリズムが整い、心身ともに家族全員が健康的な生活を送ることに繋がります。

こどもクリニックさいとうより皆さんへ・・・

新年度も目前になりました。

春先から初夏にかけては気温が徐々に上がることで血圧が下がることに加え、進学やクラス替えなど新しい環境に順応するためのストレスがかかりやすくなることから、発症や症状悪化のリスクが高くなります。

慣れた環境の今のうちからお子様の様子をよく観察していただき、新年度に備えてください。

そして気になる事がありましたら、悩む前に是非一度ご来院いただき、当院の小児科専門医または院長の齋藤にご相談ください。

早期発見、早期対処そして経験からくるアドバイスでお子様のつらい状況を少しでも和らげるお手伝いをしながら、お子様の成長を保護者の皆様と共に見守っていきたいと思っています。

「気合いでどうにかなる問題ではない」という事を保護者の方、またお子様と関わる社会の皆さんが理解をし、共にお子様の成長を見守っていける世の中の一助になりたいとスタッフ一同、願っています。